ファッションデザイナーとしての原点と、日本への想い
学生時代、私はGUCCIやルイ・ヴィトンといったフランスやイタリアの老舗メゾンのファッションに魅了されていました。しかし、文化服装学院を卒業後、私が選んだのはニューヨークへの渡航でした。
90年代から2000年代にかけてのファッション界では、トム・フォード、マーク・ジェイコブス、アルベール・エルバス、マイケル・コースなど、ニューヨークのデザインスクール出身者がヨーロッパの老舗メゾンのデザインチームを牽引していました。当時の私はニューヨークに特に関心があったわけではありません。「なぜアメリカのデザイナーがヨーロッパで評価されるのか?」その理由を知りたいという好奇心に駆り立てられ、渡米を決意したのです。結果的に、ニューヨークは私にとってかけがえのない街となりました。
3年間のニューヨーク滞在中、私は日米のファッション教育の違いを肌で感じました。日本の文化服装学院では「個性を最大限に伸ばすこと」が重視される一方、ニューヨークでは「顧客を徹底的に理解すること」が求められます。
一見すると対照的なこの2つの考え方は、物事の裏表であり、相手を知るためにはまず自分を知る必要があるという点で、実はよく似ています。しかし、当時の私は「自分はどちらのデザイナーなのだろうか?」と悩み、葛藤していました。
現在の私は、お客様との対話からインスピレーションを得ています。お客様一人ひとりの中に「素敵」だと思える要素があり、その感動の積み重ねが私の創作の源泉となっています。
私は、このような素晴らしい人々がいる日本の魅力をファッションを通して世界に発信したいと考えています。日本の美しい心を洋服に込め、日本のアイデンティティを形にしたい。それが、私が自然体でできることだと信じています。
以前、師と仰ぐ方からいただいた言葉を、今も大切にしています。
「世界に出る人はたくさんいますが、アメリカで成功する人、ヨーロッパで成功する人、世界中で成功する人など、全く違ったアイデンティティがあります。世界中で成功できる人は『本当の日本人』と言えるでしょう。逆に、本当の日本人でなければ、彼らはビジネス以外の付き合いはしないと思います。この『本当の日本人』は難しいのですが、あなたならきっとできるでしょう。老兵が出る幕はありません。」
この言葉を胸に、これからも日本の美意識を追求し、世界に発信していきたいと考えています。